2019年02月01日 第04巻 第05号

特集

第一特集:GAPFREE「多層的疾患オミックス解析による、がん、精神疾患、腎疾患を対象とした医療技術開発」について

  GAPFREE(Funding for Research to Expedite Effective drug discovery by Government, Academia and Private partnership)は、革新的な新薬の創出を目指す日本医療研究開発機構(AMED)の産学官共同プロジェクトです(実施期間:2015年12月~2020年3月)。アカデミア(国立高度専門医療研究センター[NC]ほか)側は、臨床情報の付随した試料のオミックス解析を行い、参画企業側はそれらの情報を利用して創薬研究を行うしくみで、アカデミア側の体制は、以前に行われた6NCの多層的オミックス解析プロジェクトをモデルとしています。
  GAPFREEで最も重要なのは、アカデミアが保有・収集する疾患関連試料と企業の創薬ニーズの「マッチング」です。「試料・情報の収集・解析に立案当初から企業が関与し、創薬ニーズを反映させることで、研究から創薬に至るプロセスを迅速化・効率化する」という新しいコンセプトのもと、5つの疾患プロジェクトが進行中です。すでに、オミックス解析により創薬標的候補が得られつつあるほか、一部ではfirst-in-humanを含めた臨床試験も計画されつつあります。
  試料・情報の収集戦略は、広く医学研究への応用を想定しているバイオバンク事業とは異なりますが、「専門性の高い
  疾患情報の付随した高品質の試料収集」という点は共通であり、試料・情報の収集・解析やその具体的なプロセス、使用目的などは相補う関係にあると考えられます。このため、プロジェクト終了後に、参画企業の権利を十分確保しつつ、収集した試料やオミックス情報をバイオバンクと有機的に連携させるための方策も検討されています。(以上、文責:NCGM安田和基)
  NCNPは、GAPFREEの精神疾患領域の解析拠点となっています。NCNPのバイオバンクでは、統合失調症、うつ病、双極性障害、健常対照者の臨床情報付き試料(脳脊髄液、血液)を保有・収集しています。
  GAPFREEでは、精神疾患の新規治療薬開発を目指す第一三共とともに、NCを中心とする解析機関で精神疾患の試料の多層オミックス解析を行うことで、標的分子の探索を行っています。それと同時に、第一三共の候補薬剤を動物に投与した後の分子変化を解析し疾患のオミックスデータと比較することで、症例選択や治療効果の指標となりうるバイオマーカーの開発を進めています。こうした共同研究が実を結ぶことを期待しています。(以上、文責:NCNP服部功太郎)
 
 

第二特集:バイオバンクにおける精神疾患(認知症を含む)の収集状況

  NCBNに参画する6つの国立高度専門医療研究センター(NC)のバイオバンクは、各NCの病院を受診された患者さまから同意を得た上で、豊富な医療情報を伴う試料を収集しています。各NCの研究にはそれぞれ特徴があるため、同じ分類の疾患群でも保有する試料の種類や付随する医療情報にそれぞれ特徴があります。登録者数や試料の件数だけからはわからない、各NCバイオバンクの特徴をお伝えするため、今回は「精神疾患(認知症を含む)」をテーマとして、関連する試料の収集に向けた各NCの取り組みをお伝えします。
国立がん研究センター(NCC)
①NCとしての精神疾患(認知症を含む)への取り組み
  がんの治療中に気持ちの落ち込みや不安感が生じたり、症状の進行によって「せん妄」という精神症状が生じることは少なくありません。また、患者さまのご家族も大きなストレスを抱えておられます。このため、1992年に精神腫瘍科を開設し、患者さまとご家族の心のケアに取り組んでいます。1日の外来数は平均約11名です。
②NCCバイオバンクにおける精神疾患(認知症を含む)の収集状況
  精神腫瘍科の性格上、試料の収集は行っておりません。
国立循環器病研究センター(NCVC)
①NCとしての精神疾患(認知症を含む)への取り組み
  本格的な脳卒中ケアユニット(SCU)を国内で初めて立ち上げ、24時間365日体制で急性期脳卒中の患者さまを受け入れています。脳神経内科、脳血管内科が脳神経外科と良好に連携し、外科手術が必要な場合は遅れることなく外科治療を受けられます。脳卒中の他、認知症(アルツハイマー病、血管性認知症)やてんかんなどの精神神経疾患の診療および研究を行っています。
②NCVCバイオバンクにおける精神疾患(認知症を含む)の収集状況
  おもにDNA、血漿、血清があります。脳卒中症例の剖検例は脳組織も一部凍結、およびFFPEで保存しています。
③試料に付随する医療情報の特徴
  一般血液検査、尿検査の結果に加え、撮像していれば脳MRI、CT、SPECTなどの画像も提供可能です。症例によっては心電図、頸動脈、心臓などの超音波検査や神経伝導速度検査などの生理機能検査、および認知機能の評価も実施しており、それらの情報提供も可能です。
④治療抵抗性症例や難治例の試料、および⑤試料収集時の治療に関する情報(ステージ、治療の状況、転帰)について
  どちらも保有しています。
国立精神・神経医療研究センター(NCNP)
①NCとしての精神疾患(認知症を含む)への取り組み
  精神疾患および認知症の毎月の外来数は約300名です。
②NCNPバイオバンクにおける精神疾患(認知症を含む)の収集状況
  精神疾患については毎月約30件の血液、約10件の脳脊髄液を収集しています。2018年10月までの登録者数は、統合失調症、大うつ病性障害、双極性障害、発達障害/知的障害、てんかん、パーキンソン病、アルツハイマー型認知症などを合わせて16,000名を超えています。試料の種類としては、脳脊髄液、血漿、血清、DNAなどがあり、件数はそれぞれ数千件にのぼります。
  精神疾患は明確な分類が難しく、病名がオーバーラップしたり、1つの病名中に複数の亜型が混在していることもしばしばであり、それが、精神疾患の実用的なバイオマーカーがまだ見つかっていない理由の1つとなっています。そこで、当バイオバンクでは、なるべく一定の基準で病名をつけるとともに、可能な限り詳細な症状評価を行っています。
③試料に付随する医療情報の特徴
  NCBNの共通問診項目の他、主要精神疾患が疑われる患者さまについては、診断面接(MINI)、症状評価(PANSS、HAM-D、MADRS等)、主治医の希望により他の神経心理検査を行い、結果をバイオバンクのデータベースに保存するとともに、電子カルテにも反映させています。独自の病名登録支援システムも構築し、それを利用して、病名の最適化に努めています。
④治療抵抗性症例や難治例の試料について
  当院の性質上、難治例の受診が多いです。電気痙攣療法が必要な気分障害、クロザピン投与が必要な統合失調症、手術が必要なてんかん等についても収集を行っています。
⑤試料収集時の治療に関わる情報(治療の状況、転帰)について
  処方は記録しています。一般的に精神・神経疾患は慢性の経過をとることが多く転帰の記録は少ないですが、一部の疾患・治療法については縦断的な評価も始めました。
国立国際医療研究センター(NCGM)
①NCとしての精神疾患(認知症を含む)への取り組み
  成人期の精神疾患に関連を示す遺伝要因は次第に明らかになってきていますが、それらが児童期においてどのような症状を示すのかは、児童期精神疾患の遺伝子研究が十分に進んでいないために不明のままです。これを明らかとできれば、疾患形成の自然経過を明らかとでき、児童期からの早期介入によって、成人期の精神疾患の発症や重篤化を抑制できる可能性があります。わが国に限らず、欧米においても児童精神科領域は医師が少なく、そのサンプリングは困難ですが、NCGM国府台病院では、児童から成人までの精神疾患を一貫して扱っていることを生かし、成人期の精神科を有する施設とも共同して、このような先駆的な研究を進めています。児童精神科の2017年の初診数は、約400名でした。
②NCGMバイオバンクにおける精神疾患(認知症を含む)の収集状況
  児童精神科の初診時診断(ICD-10分類)は、神経症性障害(F4)、気分障害(F3)、摂食障害(F5)、精神遅滞(F7)、自閉症を含む広汎性発達障害(F8)、注意欠如・多動性障害(ADHD)の他、F4やF9に含まれるアタッチメント障害、選択制緘黙、分離不安障害など児童思春期特有の希少な精神疾患も多数受診があります。成人期の精神科でもっとも多い統合失調症(F2)は、初診時はまれですが、通院中に発症する患者さまも一定数います。こうした患者さまを登録させていただいています。
③試料に付随する医療情報の特徴
  児童精神科には長期に通院することが多いため、蓄積された医療情報から患者さまの経過を追うことが可能です。また、脳画像(CTもしくはMRI)、脳波、血液検査、家族構成、精神科遺伝負因、出生時異常、教育歴、初診時のDSM診断およびICD診断、自己記入式質問紙(抑うつ、不安、精神病症状)、保護者記入式質問紙(ADHD症状、ASD症状、養育困難度)、治療歴(入院歴、薬物療法、心理社会的治療)などの情報もあります。
④治療抵抗性症例や難治例の試料について
  児童思春期年代に発症した統合失調症は、予後が悪いとされています。このような児童思春期の重症例(自殺企図、長期のひきこもりを認めるなど)の試料を保有しています。
⑤試料収集時の治療に関する情報(ステージ、治療の状況、転帰)について
  電子カルテに記載されています。
国立成育医療研究センター(NCCHD)
①NCとしての精神疾患(認知症を含む)への取り組み
  こころの診療部(精神科)において、一般の小児科や精神科では対応できないような、子ども(中学3年生まで)のこころの問題もしくは乳幼児期の親子関係の問題に対応しています。年間の初診数は約100名です。
  また、国内有数の大規模周産期センターを有していることから、周産期の精神障害(産後うつ病、不安障害、強迫性障害、産褥精神病など)の診療を行っています。年間の初診数は約250名です。
②NCCHDバイオバンクにおける精神疾患(認知症を含む)の収集状況
  当バイオバンクの主な収集対象は、産科・母性内科・胎児診療科・消化器内科あるいは、「小児希少・未診断疾患イニシアチブ(IRUD-P)」に参加された小児とそのご家族であることから、精神疾患(認知症を含む)に関する試料を直接の収集対象とはしてきませんでした。しかし、今後はこころの診療部と連携して試料収集を行っていく方針です。すでに、上述の精神障害症例の試料収集を始めており、また、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症の幼児の唾液試料の収集も行っています。自閉スペクトラム症の診断については、国際的なゴールドスタンダードの診断ツールを用い、厳密な診断を行っています。
国立長寿医療研究センター(NCGG)
①NCとしての精神疾患(認知症を含む)への取り組み
  NCGG全体として、認知症の毎月の外来数は約600名です。このうちの約90名が初診の患者さまです。
②NCGGバイオバンクにおける精神疾患(認知症を含む)の収集状況
  バイオバンクには毎年900~1,000名の新規登録がありますが、うち60%ほどが認知症外来からです。認知症の診断名は専門医によるカンファレンスを経て確定されます。認知症とその他精神・神経疾患の登録者数は5,000名を超えています。認知症においては、アルツハイマー病が半数以上を占め、以下、血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭葉変性症、軽度認知障害があります。他に、パーキンソン病、正常圧水頭症、主観的認知障害などの登録もあります。
③試料に付随する医療情報の特徴
  通常の問診と一般的な検査結果の他、心理テストなどを含む神経学的検査情報、高次脳機能検査情報、画像情報(MRI、SPECTなど)が付随しており、経時的な画像情報も可能な限り登録されています。一部の症例については、アルツハイマー型認知症のバイオマーカーである髄液中のtau、p-tau、Aβ42などのデータも揃っています。
④治療抵抗性症例や難治例の試料について
  認知症は、一部を除き難治性疾患であるため、治療抵抗性症例や難治例の試料は特に区分していません。
⑤試料収集時の治療に関する情報(ステージ、治療の状況、転帰)について
  電子カルテの記載範囲内で把握しています。

最新ニュース

ナショナルセンター・バイオバンクネットワーク(NCBN)
  2018年11月22日~25日に福岡で開催された第38回医療情報学連合大会(第19回日本医療情報学会学術大会)でポスター発表を行いました。NCBNカタログDBは、それぞれ異なるプラットフォームをもつ6NCのバイオバンクから共通のデータを収集・検索可能にしたもので、バイオリソースの活用につなげるという目標に向けて一定の成功を収めたことを述べた上、検索から実際の試料提供までに発生した課題に対応するためにカタログDBとNCBNのHPをどのように改修していくか、また、NCBNとして今後どのような開発を行っていくかという展望を発表しました。多くの方に聞いていただき、意見交換もさせていただきました。いただいたご意見を参考にしつつ、医療に関わる研究開発を促進するサービスへ向上させていきます。

NC活動状況

NCBNカタログデータベース試料登録情報 (2018年12月31日時点)

  NCBNの活動にご理解、ご賛同いただきましてありがとうございます。患者さまのご協力により、主な生体試料の種類(血清・血漿・DNA・RNA・固形組織・髄液・病理組織など)を網羅しつつ下表のICD-10コード分類に沿う形で登録試料を検索できるようになっています。試料登録数の合計は、222,328件(2018年9月30日)から231,379件(同12月31日)へと着実に増えています。
  統計はつねに更新しており、最新の数値はNCBNウェブサイト(http://www2.ncbiobank.org/Search/Search_)でご確認いただけます。

 
PDF版は「こちら

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