2019年05月07日 第05巻 第01号

特集

第一特集:NCBN-製薬協合同会議中間報告について

日本製薬工業協会(以下、製薬協)は、研究開発志向型製薬企業71社(2018年5月7日時点)よりなる団体で、革新的で有用性の高い医薬品の開発を通じて、人々の健康と医療の向上に貢献することを目指しています。製薬協の常設委員会の1つである研究開発委員会(2018年5月7日時点で35社が加盟)における活動の1つにバイオバンクの利活用推進があり、企業ニーズの把握の必要性を認識するNCBNとの間で「NCBN-製薬協合同会議」が組織されました。この会議は、相互理解を深めることでバイオバンク試料の利活用における促進を通じた創薬等の推進を図ることを目的としており、2018年1月よりこれまでに3回開催され、このほど中間報告がとりまとめられました。
  会議では、サンプルの品質、サンプルと付帯する医療情報の提供、検索システム、バイオバンクとユーザーの橋渡し、倫理面、提供プロセスの統一化・迅速化、個別研究収集試料のカタログ収載と提供、解析情報の提供について、現状と課題、今後の方向性を議論しました。その結果、製薬協側に、NCBNでの試料の品質管理が概ね製薬協の希望に沿っていること、試料に豊富な医療情報が付帯していること、患者さまへの同意説明文書が企業利用にも適合できる構成となっていることなどを把握していただけました。
  また、NCBN側は、製薬企業が同一被験者の時系列試料やコントロール試料などを重視していることや、試料提供プロセスにおいてやりとりする情報についての要望などを理解し、NCバンク試料のいっそうの利活用を図るために取り組み、検討すべき事項を抽出できました。これを踏まえて、NCBNはアクションプランを策定し、疾患バンク利活用の促進に取り組んでいく予定です。
  議論の中で新たな取り組みとして取り上げられた検索システムの充実化やの解析情報の提供は、ユーザーのニーズを踏まえ、費用面も含めたより深い検討が必要であることから、集中的な議論を行う場を設置して、さらに検討を進めていくこととなりました。
  今回、製薬協とNCBNが現状について相互理解を深めることにより、試料・付帯医療情報の利活用の方向性に影響を与えられたことは大きな成果でした。今後、この中間報告を踏まえた対応・検討を進めるとともに、引き続きNCBN-製薬協合同会議を開催し、進捗の報告と相互理解の深化を図っていきます。
 
 

第二特集:バイオバンクにおけるがんの収集状況

NCBN前々号の「自己免疫疾患」、前号の「精神疾患(認知症を含む)」に引き続き、今回は「がん」をテーマとして、NCBNに参画する6つの国立高度専門医療研究センター(NC)のバイオバンクの特徴をご紹介します。2019年2月末時点での、各NCのがん(ICD-10分類のC00-D48:新生物)試料登録数は下表の通りで、がんについての各NCの診療・研究活動を反映しています。
 
国立がん研究センター(NCC)
 
①NCとしてのがんへの取り組み
  「社会と協働し、全ての国民に最適ながん医療を提供する」ことを理念とし、「がんの本態解明と早期発見・予防」「高度先駆的医療の開発」「標準医療の確立と普及」などを使命として、中央病院、東病院、研究所、先端医療開発センター、社会と健康研究センター、がん対策情報センターの各機関で、最先端技術・情報に基づいた医療の実践と新たな診断法や治療法の開発・研究、がんの公衆衛生やがん情報の発信にあたっています。入院患者さまの延数は179,149人/年、外来患者さまの延数は341,654人/年(いずれも2018年度、2019年2月末時点)です。
②NCCバイオバンクにおけるがんの収集状況
  全がん種の高品質、多数の試料を収集・保有しており、希少疾患である骨軟部腫瘍、眼腫瘍、リンパ腫を含む造血器腫瘍、胆道腫瘍等も多数含まれています。
③試料に付随する医療情報の特徴
  臨床情報、診療情報管理士がキュレーションした「院内がん登録情報」、感染症情報が付随しています。
④治療抵抗性症例や難治例の試料について
  治療抵抗性症例や難治例のがんという情報区分が現状ではありませんが、試料は保有しています。
⑤試料収集時の治療に関わる情報(治療の状況、転帰)について
  現状では試料に添付されていませんが、近将来に添付を計画しています。
 
国立循環器病研究センター(NCVC)
 
①NCとしてのがんへの取り組み
  がんに対する治療は行っていないので、がん治療目的の受診者はいません。
②NCVCバイオバンクにおけるがんの収集状況
  上表は、既往歴の数を示しています。
③試料に付随する医療情報の特徴
  既往歴のみの情報で治療はしていないので、画像、検査はありません。
④治療抵抗性症例や難治例の試料、および ⑤試料収集時の治療に関する情報(治療の状況、転帰)について
  保有していません。
 
国立精神・神経医療研究センター(NCNP)
 
①NCとしてのがんへの取り組み
  脳腫瘍はてんかんの原因として最も多いものの一つです。難治てんかんの外科治療として、年間10~20例程度の患者さまを対象に脳腫瘍の切除と診断を行っています。
②NCNPバイオバンクにおけるがんの収集状況
  外科治療を受けたてんかん患者さまを対象に脳試料を収集しており、その一部に脳腫瘍が含まれています。てんかんの原因となる脳腫瘍は、その病理学的分類や分子遺伝学的な背景が十分に明らかになっておらず、まれに誤診による過剰な治療が問題視されています。NCNPでは、てんかん原性腫瘍の診断基準確立を目指した研究も行っています。
③試料に付随する医療情報の特徴
  てんかんの術前には包括的な検査を行っています。共通問診項目に加えて、脳MRI、FDG-PET、SPECT、MEG(脳磁図)、長時間ビデオ脳波、神経心理学的検査(WAIS-III、WMS-R、MINI or MMPI)が提供可能です。
④治療抵抗性症例や難治例の試料、および ⑤試料収集時の治療に関する情報(治療の状況、転帰)について
  保有しています。
 
国立国際医療研究センター(NCGM)
 
①NCとしてのがんへの取り組み
  2017年の診療実績は、手術758例、放射線治療469例、化学療法1871例です。NC唯一の総合病院である基盤を活かし、さまざまな診療の取り組みと研究活動を連動させています。
  腹膜偽粘液腫や膵管内乳頭粘液性腫瘍などのがん種に特化した治療や、合併症の治療への取り組みもしています。国府台病院消化器・肝臓内科では、肝がんの全国治験に参加しているほか、RFA(ラジオ波焼灼療法)やTACE(肝動脈化学塞栓療法)といった内科的処置を中心に肝がんの治療を進めています。
  AYA(Adolescent and Young Adult, 思春期・若年成人)世代のがんは、毎月5人前後の新規入院(繰り返しを除く)があります。2018年7月に「AYA支援チーム」を発足させ、患者さまのニーズに応じたサポート活動を行っています。また、生殖医療を行う診療科と連携し、がん治療前の妊孕性温存療法や治療後の不妊治療も行っており、これらに関連する研究も行っています。今後は、遺伝性腫瘍の患者さまと未発症血縁者のサーベイランスシステムを構築していく予定です。
②NCGMバイオバンクにおけるがんの収集状況、および③試料に付随する医療情報の特徴
  血清・血漿・DNAを基本に、手術組織を新鮮凍結で収集しています。また、病理診断後の組織切片などのご要望がありましたらお問い合わせください。
  乳腺がんや腎泌尿器科系・婦人科系のがんについては、手術前の入院時検査に合わせて血液試料を採取しています。このため、感染症情報が付随しており、外部の研究者でも安心して取り扱えます。
  肝胆膵のがん(がん部・非がん部)、がん術後を含むリンパ浮腫(皮膚・脂肪・リンパ節)において、血液試料と手術摘出組織(新鮮凍結)をセットにして試料収集しています。手術組織試料は、術場にて阻血時間・摘出時間・凍結開始時間を記録し、摘出後即時に凍結保存しています。肝がんでは、HBV、HCV由来の症例に加えて、近年増加傾向にある非ウイルス性肝炎由来の症例を中心に多数保管しています。
  各がん症例の臨床情報としては、血液検査値や病理診断の情報を利用できます。また、診療上必要で検査された情報を利用可能です。例えば、前述のリンパ浮腫では診断・評価のために、「リンパシンチグラフィ」「SPECT-CT」「MR lymphography」「CT」「ICGリンパ管造影」「直接的リンパ管造影」などを病態に応じて行いますので、そうした医療情報も得られます。詳細はお問い合わせください。
④治療抵抗性症例や難治例の試料について
  NCBNのカタログDBにて検索の上、詳細はお問い合わせください。
⑤試料収集時の治療に関する情報(治療の状況、転帰)について
  お問い合わせの内容に応じて精査いたします。
 
国立成育医療研究センター(NCCHD)
 
①NCとしてのがんへの取り組み
  診療部門である病院の小児がんセンター、病理診断部、放射線診療部、小児がん登録室、研究部門である研究所小児血液・腫瘍研究部がタッグを組んで、小児がんに対して総合的、包括的に取り組んでいます。当センターは、厚生労働省が指定する小児がん中央機関であるとともに小児がん拠点病院の1つであり、わが国の小児がん診療を牽引しています。年間約100例の小児がん患者さまの診療に当たるとともに、全国の小児がんの中央診断や試料保存を担当しています。
②NCCHDバイオバンクにおけるがんの収集状況
  小児に特化したがんの試料を収集しています。
③試料に付随する医療情報の特徴
  国内の小児がん中央診断の拠点であるため、正確な病理診断に基づく詳細な分子診断情報に、放射線画像診断、臨床情報がリンクしています。
④治療抵抗性症例や難治例の試料について
  保有しています(数は多くはありません)。
⑤試料収集時の治療に関する情報(治療の状況、転帰)について
  保有しています。
 
国立長寿医療研究センター(NCGG)
 
①NCとしてのがんへの取り組み
  2018年4月から2019年2月のセンター全体でのがんの平均月間受診者数は32人です。
②NCGGバイオバンクにおけるがんの収集状況
  血液内科から、リンパ腫・白血病等の患者さまの登録がこれまでの累計で40件ほどありますが、上表の数字はがん既往歴を含みます。
③試料に付随する医療情報の特徴
  がんの試料に付随する医療情報は限定的です。
④治療抵抗性症例や難治例の試料、および⑤試料収集時の治療に関する情報(治療の状況、転帰)について
  保有していません。

最新ニュース

日本臨床試験学会第10回学術集会総会にてNCBNがブース展示を行いました
 
2019年1月25日~26日に、東京ビックサイトで開催された標記学会
(会長:NCGM臨床研究センター長 渡邉裕司[開催当時])にNCBNとして出展しました。この学会には、臨床試験・臨床研究に携わる専門職の方が2日間で1300名ほど参加され、当ブースにも多くの来場者がありました。
  アカデミア・医薬品開発企業・報道関連の方々を対象に、バイオバンクやNCBNについての紹介や、収集試料と医療情報は研究開発に提供可能であることなどを説明でき、たいへん有意義な機会でしたが、NCBNについての認知度はまだ低い印象で、引続き周知していくことが必要だと感じました。
 また、来訪者の方から、「現時点では収集していないヒト生体試料の収集の予定はあるのか」、「依頼すれば提供してもらえるのか」などのご質問をいただきました。こうしたご意見は、活動の参考になりますので、これからもぜひ、ご意見をお寄せいただければと思いました。

NC活動状況

NCBNカタログデータベース試料登録情報 (2019年03月31日時点)

  NCBNの活動にご理解、ご賛同いただきましてありがとうございます。患者さまのご協力により、主な生体試料の種類(血清・血漿・DNA・RNA・固形組織・髄液・病理組織など)を網羅しつつ下表のICD-10コード分類に沿う形で登録試料を検索できるようになっています。試料登録数の合計は、231,379件(2018年12月31日)から237,219件(2019年3月31日)へと着実に増えています。統計はつねに更新しており、最新の数値はNCBNウェブサイト(http://www2.ncbiobank.org/Search/Search_)でご確認いただけます。

 
PDF版は「こちら

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