2019年08月01日 第05巻 第02号

特集

よりレベルが高く、より多く活用していただけるバイオバンクを目指して

2019年4月に着任しました。私は、ゲノム医学、人類遺伝学の研究者として、多因子疾患(具体的には糖尿病、自己免疫疾患、感染症)に関わるゲノムの特性を探索する一方、ヒトゲノムバリエーションデータベースなどの構築に関わってきました。これらは、バイオバンクに関連する領域ですが、バイオバンク活動そのものに参加することは初めての経験ですので、勉強しつつ、重責を果たしていきたいと思います。
NCBNの6つの国立高度専門医療研究センター(NC)のバイオバンクには、約7万人の患者さまからいただいた24万件以上の試料が登録されており(2019年6月末現在)、それぞれの試料に豊富な臨床情報が付随しています。わが国を代表するハイレベルな疾患バイオバンクですので、その有用性をさらに高め、より多くの方に利用していただけるようにすることが私の務めです。そのために、3つの取り組みをしたいと考えています。
1つめは、我田引水のようですが、試料にゲノム情報を付加して提供することです。最近、欧米では、ある多因子疾患の大勢の患者さまのゲノムワイドSNPと、住民コホートを組み合わせることによって、住民の中でその病気になるリスク(polygenic risk score)が高い人を特定する手法が使われ始めています。リスクが高いとされた人は、予防や早期治療のための対策を取ることができるので、期待の大きい手法です。NCBNの試料に、ゲノム情報が加われば、日本でもこうした手法の実現に貢献できるはずです。もちろん、疾患発症のメカニズム解析にも大きく貢献します。そこで、NCBNのほうでゲノム情報を取得し、試料とともに提供できたらと考えています。なるべく低予算で有効なゲノム情報が得られるように知恵を絞り、実現を目指します。
2つめは、他のバイオバンクとの連携です。NCBNと、バイオバンク・ジャパン(BBJ)、東北メディカル・メガバンクは、日本の三大バンクと言われています。BBJは、47疾患について27万件の試料を保有しており、東北メディカル・メガバンクは、15万人の住民のコホート調査を行っています。3つのバイオバンクの性格は異なり、補い合う関係にありますが、三者が協力と連携を図ることで、医学研究によりよい貢献ができることでしょう。私は、これまでの研究を通じて、どちらのバイオバンクとも人的なつながりがありますので、それを生かして、協力の仕方を探っていきます。
3つめは、NCBNの広報の見直しです。例えば、これまでは医療機器の展示会のような商業性の高いイベントにNCBNのブースを出していたのですが、学会を中心とした出展も加え、海外にも出展することにしました。これによって、より多くの研究者にNCBNを知っていただき、使っていただけるようになることを期待しています。こうした取り組みは、6NCのバンク長、担当者の方々とよく相談しながら進めてまいります。NCBNの活動へのご理解とご支援を引き続き賜りますようお願い申し上げます。

 

特集:バイオバンクにおける腎尿路系疾患の収集状況

NCBNに参画する6つの国立高度専門医療研究センター(NC)のバイオバンクの特徴をご紹介するシリーズの4回目として、「腎尿路系疾患」を取り上げます。2019年6月14日時点での、各NCの腎尿路系疾患(ICD-10分類の「N00-N99:尿路性器系の疾患」から生殖器系疾患を除き、他の分類の腎尿路系に関係する疾患を加えたもの)の試料登録数は下表の通りです。試料は主に血清、血漿、ゲノムDNAなどを保有しておりますが、詳細はNCBNカタログデータベースでご確認ください。この表に基づいて、腎尿路系疾患についての各NCの診療・研究活動をご紹介します。なお、国立精神・神経医療研究センター(NCNP)には、腎尿路系疾患の診療科がなく、合併症や併存症の方が時折いらっしゃるのみのため、今回は取り上げていません。
N00-N99の分類は以下に合わせ、生殖器系疾患は除いています。
http://www.dis.h.u-tokyo.ac.jp/Scripts/ICD10Categories/default2_ICD.asp?CategoryID=N00-N99
 
国立がん研究センター(NCC)
 
①NCとしてのがんへの取り組み
泌尿器科の受診者数(月間)は、入院患者678人、外来患者1,643人です。
②NCCバイオバンクにおけるがんの収集状況
当センターは腎がん、尿管がん、膀胱がんをはじめ、サブタイプを含めた様々な種類のがんの試料を豊富に収集しており、詳細な病理診断が付随しています。DNA、RNAlysate、血漿等を保有していますが、尿検体は保有していません。
③試料に付随する医療情報の特徴
他のがん種と同様の医療情報が付随していますが、腎尿路系のがんに特有の情報はありません。
④治療抵抗性症例や難治例の試料について
治療抵抗性症例や難治例のがんという情報区分が現状ではありませんが、試料は収集されています。
⑤試料収集時の治療に関わる情報(治療の状況、転帰)について
現状では試料に添付されていませんが、近い将来に添付を計画しています。
 
国立循環器病研究センター(NCVC)
 
①NCとしてのがんへの取り組み
腎臓・高血圧内科で、尿所見異常のある腎炎・ネフローゼ症候群の患者さまに対する腎生検および抗免疫治療の実施、保存期腎不全患者さまの教育入院、血液透析・腹膜透析の導入、また、二次性高血圧の診断と治療を実施しています。
2018年度の実施数は、腎生検13件、新規血液透析導入30件、月平均で外来患者数130人、血液透析件数173件でした。また、同年度の原発性アルドステロン症の負荷検査35件、確定診断26件でした。この他、腎ドプラ検査51件、他科コンサルテーション212件に対応致しました。
②NCVCバイオバンクにおけるがんの収集状況
当センターの特徴として、腎疾患分布において腎硬化症や虚血性腎症などの動脈硬化性の頻度が高いこと、二次性高血圧の症例が多いことがあげられます。血清、血漿、ゲノムDNAなどを保有しています。
③試料に付随する医療情報の特徴
多くの症例について24時間自由行動下血圧モニターや腎ドプラ検査を実施し、毎年研究論文を発表しています。よって、これらの生理機能検査を含めた診療情報が収集可能と考えられます。
④治療抵抗性症例や難治例の試料、および⑤試料収集時の治療に関わる情報(治療の状況、転帰)について
保有しています。
 
国立国際医療研究センター(NCGM)
 
①NCとしてのがんへの取り組み
腎臓内科では、2017年度に、ネフローゼ症候群や慢性糸球体腎炎に対する腎生検21件、集中治療室での特殊血液浄化療法430件を行いました。また、厚生労働省「HIV感染症の医療体制の整備に関する研究班」の分担研究として、HIV感染透析患者の受入れ促進に関する活動も行っています。
泌尿器科では、泌尿器がんに対する集学的治療を行っているほか、2018年より腎がんに対するロボット支援下腎部分切除術を開始しました(2019年6月時点で20例弱)。泌尿器科として研究用データベースを構築しており、膀胱がんについては尿細胞診およびTUR所見の登録を行っています。
結石治療にも力を入れています。体外衝撃波腎・尿管結石破砕術(ESWL)、経尿道的尿路結石除去術(内視鏡によるレーザー砕石:TUL)、経皮的尿路結石砕石術(PNL)および上記のTULとPNLを同時に行う術式(TAP)などすべての方法を行う設備・環境が整っています。
②NCGMバイオバンクにおけるがんの収集状況
腎臓内科において、いわゆる糸球体疾患(様々なタイプの糸球体腎炎やネフローゼ症候群)の試料を数多く収集しているのが他のセンターにはない特徴であり、今後も積極的に収集していく予定です。泌尿器科での登録症例は、入院時にバイオバンクに試料を保存しているため、治療介入前かつ、感染症情報が付随した試料を、申請のあった研究に提供することが可能です。
③試料に付随する医療情報の特徴
腎疾患を有する患者さまは、心疾患や糖尿病、動脈硬化性疾患、呼吸器疾患、膠原病、感染症、血液異常など他の領域の問題も抱えているケースが多いため、幅広い見地に立っての診療情報があります。
④治療抵抗性症例や難治例の試料について
急速進行性糸球体腎炎(RPGN)や膠原病による腎炎(膠原病科保管分も含む)の試料も保有しています。
⑤試料収集時の治療に関する情報(ステージ、治療の状況、転帰)について
通常の臨床紐付け情報は把握しています。ただし、治療の状況や転帰のすべてを把握しているわけではないので、必要に応じ調査します。
 
国立成育医療研究センター(NCCHD)
①NCとしてのがんへの取り組み
腎臓・リウマチ・膠原病科(診療部長 亀井宏一)において、小児の腎疾患、小児の腎代替療法(腹膜透析、血液透析、腎移植)を扱っています。
腎疾患は、多くの難治性腎疾患の患者さまが遠方より紹介で来院されます。中でも、難治性ステロイド依存性ネフローゼ症候群に対する先進的な治療であるリツキシマブ療法を他施設より先行して2006年より開始しており、これまで約200名の患者さまに550回のリツキシマブ療法を行ってきました(2019年6月現在)。慢性糸球体腎炎については、学校検尿で血尿や蛋白尿を指摘されたお子さんの腎生検を行っています。また、IgA腎症の診断・治療法について臨床研究を行ってきました。
腎代替療法については、集中治療部や泌尿器科や移植外科などと協力しながら、急性血液浄化、維持腹膜透析、維持血液透析、腎移植などを行っています。
②NCCHDバイオバンクにおけるがんの収集状況
現在、腎・尿路系疾患に関する試料は保有しておりませんが、今後問い合わせに応じて収集は可能です。
 
国立長寿医療研究センター(NCGG)
①NCとしてのがんへの取り組み
センター全体での2018年度の腎尿路系疾患の年間入院患者数は約400人、外来患者数は約1,500人です。当センターでは、排尿障害で生活上困っている患者さまに対しては、医師と排泄機能指導士が病状や生活スタイルにあった医療・対処法を提供・提案しています。研究活動としては、加齢に伴う排尿機能の低下を研究しており、患者さまや医療関係者への情報提供を目指しています。また、高度先駆的な治療法として、排尿障害に対する膀胱壁内注入療法や再生医療の研究、薬物療法に代わる次世代の治療法の開発にも取り組んでいます。
②NCGGバイオバンクにおけるがんの収集状況
現在のところ、腎尿路系疾患の試料は積極的に収集しておらず、血液・DNA・尿が数件程度です。上表の数字は副病名・既往歴を含みます。
③試料に付随する医療情報の特徴
腎尿路系疾患の試料に付随する医療情報は限定的です。
④治療抵抗性症例や難治例の試料、および⑤試料収集時の治療に関する情報(ステージ、治療の状況、転帰)について
保有していません。

最新ニュース

共通申請書とMTAの公開

NCBNのバイオバンクが保有しているヒトの試料や医療情報は、それぞれのナショナルセンター(NC)との共同研究か試料分譲という形で提供されます。NCBNは6つのバイオバンクのネットワークですが、バンクごとに分譲提供に関わる諸手続きが異なっており、ユーザー側に多少の不便が伴いました。そこで、分譲による提供時の手続きを軽減させるため、2019年4月に6NC共通で使えるバイオバンク保有試料分譲申請のための「共通申請書」(右図)と「Material Transfer Agreemen(MTA)」の雛形を作成し公開しました。共通申請書とMTAの内容は、NCBNのホームページで確認できます(https://ncbiobank.org/sample/index.php)。
なお、共同研究による試料提供の場合は、NCごとの共同研究契約書により契約を締結する必要があります。試料分譲か共同研究による試料提供かは、試料の種類や研究内容によって異なりますので、中央バイオバンクまたは各NCまでお問い合わせください。

NC活動状況

NCBNカタログデータベース試料登録情報 (2019年06月30日時点)

NCBNの活動にご理解、ご賛同いただきましてありがとうございます。患者さまのご協力により、主な生体試料の種類(血清・血漿・DNA・RNA・固形組織・髄液・病理組織など)を網羅しつつ下表のICD-10コード分類に沿う形で登録試料を検索できるようになっています。試料登録数の合計は、237,219件(2019年3月31日)から244,965件(2019年6月30日)へと着実に増えています。統計はつねに更新しており、最新の数値はNCBNウェブサイト(http://www2.ncbiobank.org/Search/Search_)でご確認いただけます。

 

 
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