平成30年11月01日 第04巻 第04号 第一特集:災害対応とバイオバンク ~大阪北部地震の経験から~ 第二特集:バイオバンクにおける自己免疫疾患の収集状況
Newsletter Volume 4 Issue 04, November 01, 2018 (in Japanese).

特集

第一特集:災害対応とバイオバンク ~大阪北部地震の経験から~


国立循環器病研究センター(NCVC)
  2018年6月18日(月)7時58分頃に最大震度6弱が観測された「大阪北部地震」が発生しました。震源地の近傍にて被災したNCVCバイオバンクが受けた被害の状況とその後の対応について、以下に簡単な報告をいたします。
  被害の概況:①バイオバンクの執務室、サーバーおよび検体保管室のある建物が4時間停電しました。②これに伴い一部の冷凍庫でマイナス80度からマイナス57度まで温度の上昇がみられました。③なお当日朝に採血され病棟冷蔵庫で保管されていた6名分の検体が温度管理されぬまま放置されました。
  主な対応:①翌19日中には各種システムの復旧が完了しデータの喪失もなく20日に院内検体受け入れを再開しました。②当該冷凍庫での保管試料の払い出し時に、各庫の温度変化に関する情報を含む「利用上の注意喚起に係る文書」を利用者へ配布する方針としました。③6名分の検体をすべて廃棄しました。
  その他の対応:外部医療機関からのバイオバンク検体受け入れは業者搬送が安定するまで停止し、すでに採血済みの検体については全血凍結などの措置をお願いすることで、翌週27日から同検体の受け入れ業務を再開しました。
  今後の見通し:2019年にはNCVC全体がJR新大阪駅により近い地域への移転を予定しています(http://www.ncvc.go.jp/special/)。ここでも冷凍庫が非常電源に接続されていないなど停電対策が十分でないことが懸念されることから、これらの確保を図るなどの対策を講じることで、より安全で堅牢な試料・データの管理体制作りに取り組んでいきます。
 
 

第二特集:バイオバンクにおける自己免疫疾患の収集状況

  NCBNに参画するバイオバンクの最大の特徴は、病院を有する6つの国立高度専門医療研究センター(NC)がそれぞれの病院を受診された患者さまから同意を得た上で、豊富な医療情報を伴う検体を収集している点にあります。各NCには異なる特徴があることから、同じ分類の疾患群であったとしても保有する検体のあり様はバラエティに富んだものとなっています。今回は、そうした各NCバイオバンクの特徴をお伝えするため「自己免疫疾患」をテーマに取り上げ、関連する検体の収集に向けた各NCの取り組みをお伝えします。
国立循環器病研究センター(NCVC)
①NCとしての自己免疫疾患への取り組み
  高安動脈炎、ANCA関連血管炎などの血管炎、高リン脂質抗体症候群、ヘパリン誘発性血小板減少症などの血栓症、急速進行性糸球体腎炎、膠原病(ループス腎炎、強皮症腎)、肺高血圧症などを主な対象としています。
②NCVCバイオバンクにおける自己免疫疾患の収集状況
  主にゲノムDNA、血漿、血清があります。
③試料に付随する医療情報の特徴
  測定されていれば、自己抗体価を提供できます。重症度についてはカルテ情報を参照すれば可能です(ただしお時間をいただきます)。
④治療抵抗性症例や難治例の検体、検体収集時の治療に関する情報(ステージ、治療の状況、転帰)などについて
  保有しています。
国立精神・神経医療研究センター(NCNP)
①NCとしての自己免疫疾患への取り組み
  2010年に多発性硬化症センター(MSセンター)を開設しました。同センターでは、神経内科、精神科、放射線科、内科、小児科の医師と免疫学や神経科学の研究者が連携して研究を進めています。専門外来を通じ年間100名以上の新患が受診され、初回の診断目的や再発時の治療目的(血液浄化療法など)の入院が年間300名を超えています。治療の大まかな特色としては、様々な疾患修飾薬(疾患の再発率を抑制したり、進行を遅らせたりする作用がある薬剤)による治療はもとより、患者さまにおける生活の質(QOL)を上げるため「外来通院ステロイドパルス療法」を施行しており、積極的な血液浄化療法、精神症状や痛み・しびれなどの諸症状に対する治療に実績があります。また新薬の臨床治験にも積極的に取り組み、MSと近い関係にある視神経脊髄炎(NMO)や慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)の診療にも力を入れています。
    参考:https://www.ncnp.go.jp/hospital/guide/sd/multiple-sclerosis.html
②NCNPバイオバンクにおける自己免疫疾患の収集状況
  多発性硬化症(MS)あるいは視神経脊髄炎(NMO)の試料が、特に充実しています(2018年8月末時点)。

③試料に付随する医療情報の特徴
  NCNPの病院を受診された患者さまの試料を収集していますが、その多くが試料採取後も長く通院されます。そのため、試料採取時だけでなく採取後の経過・予後・治療反応性などの情報も調べることができます。また脳脊髄液など同じ患者さまが複数回登録する例も多く、自己免疫疾患にかかった患者さまの状態が再発や寛解、進行や停止など変わることから、これも試料の活用における利点といえます。
④治療抵抗性症例や難治例の検体、検体収集時の治療に関する情報(ステージ、治療の状況、転帰)などについて
  MSセンターを含めNCNPの病院では、全国より診断困難な症例や難治例の患者さまが多く紹介を通じ受診されていることから、そういった方々からいただいた試料・情報を豊富に保有しています。

国立国際医療研究センター(NCGM)
①NCとしての自己免疫疾患への取り組み
  関節リウマチや全身性エリテマトーデスをはじめとする関連疾患の診療に多くの経験と実績があります。自己免疫性疾患診療の中心を担う膠原病科においては、診療データベースから患者さまの「総観察人年」を算出することで、事象の年間発症率、治療薬の継続率、患者生存率を求められるようになり、継続的なシステムが完成しています。そのようなデータベースを用いた研究として、計算データと同時に、死因、病態イベントの発生理由、薬の安全性評価などを手掛けており、予後だけでなく様々な膠原病疾患における治療・診断に関しても研究を進めています。また消化器領域では、診療ガイドラインに沿った治療のみならず、原発性胆汁性肝硬変、原発性硬化性胆管炎、自己免疫性肝炎などの国内および国際共同研究へ参画し、疾患の理解と新規治療法の開発に努めています。
②NCGMバイオバンクにおける自己免疫疾患の収集状況
  このような診療上の背景は、NCGMバイオバンクの検体収集にも大きく生かされています(2018年7月末時点)。


※表中の数値に誤りがあったため訂正しました(2018年11月19日)

③試料に付随する医療情報の特徴
  検査データや薬剤処方内容の情報を基本としています。
④治療抵抗性症例や難治例の検体、検体収集時の治療に関する情報(ステージ、治療の状況、転帰)などについて
  難治例や転帰など、上に挙げた情報以外のものを必要とされる際はお問い合わせください。

国立成育医療研究センター(NCCHD)
①NCとしての自己免疫疾患への取り組み
  免疫科にてその異常症に関する診療を行っています。自己炎症性疾患は年間数十名を診療し、周期性発熱・アフタ性口内炎・咽頭炎・頚部リンパ節炎症候群(PFAPA症候群)は毎年10名程度の新患を受け入れています。また腎臓・リウマチ・膠原病科では、若年性突発性関節炎、全身性エリテマトーデス、シェーグレン症候群、高安動脈炎などの小児リウマチ性疾患を年間150名程度診療しています。うち毎年10~20名程度を新患にて受け入れ、成長障害など小児特有の副作用に留意しつつこれらの治療にあたっています。さらに消化器科でも、小児期に発症する炎症性腸疾患(IBD)の患者さまを全国から毎年15~20名新規に受け入れ、診療にあたっています。
②NCCHDバイオバンクにおける自己免疫疾患の収集状況
  産科・母性内科・胎児診療科を受診・出産された方々とその児もしくは、主に消化器内科を受診して診断がつかず「小児希少・未診断疾患イニシアチブ(IRUD-P)」に参加された小児とその家族を対象とする検体を主なターゲットとしていることから、自己免疫疾患に関する試料を直接の収集対象とはしていません。
④治療抵抗性症例や難治例の検体、検体収集時の治療に関する情報(ステージ、治療の状況、転帰)などについて
  治療に関わるものではありませんが、妊娠前後の経過情報として、バセドウ病や橋本病、関節リウマチなど診断がついている方々のDNAや血清を保有しています。これらは出産時に採取した検体となります。
国立長寿医療研究センター(NCGG)
①NCとしての自己免疫疾患への取り組み
  NCGG全体としてのリウマチの患者さまは100名程度おります。
②NCGGバイオバンクにおける自己免疫疾患の収集状況
  現時点では関節リウマチの検体が20件程度あります。今後も患者さまへ試料ご提供の協力をお願いして参ります。

最新ニュース

国立がん研究センター(NCC)/ナショナルセンター・バイオバンクネットワーク(NCBN)
  NCBNカタログデータベースは、2018年10月4日(木)にNCCバイオバンクが保有する検体へ付加された医療情報とのA P I(Application Programming Interface)連携を実装しました。これにより新たな付加医療情報が順次追加されるとともに、6NCバイオバンクすべての付加医療情報が当データベースへ反映されたことになります。今回の対応が、6NC間のネットワーク構築をさらに推し進めるきっかけとなるよう期待しています。
    参考:http://www2.ncbiobank.org/Search/Search_
 
 
ナショナルセンター・バイオバンクネットワーク(NCBN)
 
  2018年10月10日(水)~12日(金)の3日間にかけて、パシフィコ横浜で開催されたBioJapan2018に参加しました。今回の出展にあたっては、来場者の方々へNCBNの機能を効果的にアピールすべくキャッチフレーズ「疾患サンプルと医療情報を研究開発に利用いただけます。」を掲げましたところ、幸いにも多くの方々に興味をもってお話を聞いていただくことができました。

NC活動状況

NCBNカタログデータベース検体登録情報 (2018年9月30日時点)

  NCBNの活動にご理解、ご賛同いただきましてありがとうございます。患者さまのご協力により、主な生体試料の種類(血清・血漿・DNA・RNA・固形組織・髄液・病理組織など)を網羅しつつ下表のICD-10コード分類に沿う形で登録検体を検索できるようになっています。合計登録検体数は、208,437件(2018年6月30日)から222,328件(同9月30日)へと着実に増えています。これについては、常に最新の数値をNCBNウェブサイト上(http://www2.ncbiobank.org/Search/Search_)からご確認いただけます。
PDF版は「こちら