2019年11月01日 第05巻 第03号

特集

世界のバイオバンク事情:台湾編

NCBNでは、国際的なバイオバンクとの比較から、NCBNバイオバンクの位置付けと今後の方向性について考察する活動を進めています。その一環として、2019年8月に台湾のバイオバンクを視察しました。
台湾は、2012年から国家的プロジェクトとしてアジア最大規模のバイオバンクの構築を開始し、20万人の住民と10万人の疾病患者(15疾患)の登録を目標に、生体試料やゲノム解析情報、医療情報の収集を行っています。これは、全人口(2018年12月現在、約2,359万人)の1%をカバーする規模ですが、視察時点で、住民は約10万人の登録がある一方で、疾病患者が約3,000人と少なく、患者登録は難しい状況にあるとのことでした。日本の三大バイオバンクには、住民型の東北メディカル・メガバンク機構(TMM)と、疾病型のNCBNとBiobank Japan(BBJ)があり、それぞれのメリットを生かして研究を進めることの大切さを再確認しました。
一方、台湾バイオバンクでは、検体試料収集だけでなく、ゲノム解析情報の提供も行っています。全登録者のゲノムSNP情報に加え、無作為に抽出した住民の全ゲノム解析やオミックス解析の結果を研究者に提供しています。このような解析情報は、個別化医療を推進・検討するための有益なリソースとなります。現在、NCBNの保有するゲノム情報は限られているので、今後はこの点に力を入れる必要があると思いました。
ゲノム解析情報を有効活用するには、何万人規模の解析が必要なため、国内の単一機関で大規模なデータを収集することはかなり困難です。現時点では、ゲノム情報や試料の国外提供には、台湾も日本もハードルが高く、共同研究を通じてバイオバンク試料や情報を共有できる国際協力関係を発展的に構築していくことが肝要であるという認識で一致しました。
NCBNは、今回のような情報収集の機会を生かし、より多くの方々に使っていただけるバイオバンクを目指していきます。

台湾バイオバンクの冷凍保存室

液体窒素を保存容器に補給するためのパイプラインが天井に設置されている。保存容器の周囲には床上50cmほどの高架通路が張り巡らされており、試料の出し入れなどの作業を安全に行える。

 

特集:バイオバンクにおける心血管・循環器系疾患(脳血管障害も含む)の収集状況

NCBNに参画する6つの国立高度専門医療研究センター(NC)のバイオバンクの特徴をご紹介するシリーズの5回目として、「心血管・循環器系疾患(脳血管障害も含む)(以下、循環器系疾患)」を取り上げます。2019年9月9日時点での、各NCの循環器系疾患(ICD-10分類の「I00-I99 循環器疾患」と「Q20-Q28 先天性循環器疾患」)の試料種類別の登録数は下表の通りです。この表に基づいて、循環器系疾患についての各NCの診療・研究活動をご紹介します。なお、国立精神・神経医療研究センター(NCNP)は、現時点では循環器系疾患の試料収集を行っていないため、今回は取り上げていません。
2019/10/25現在
※おもにPBMC培養用凍結バフィーコートです。
 
国立がん研究センター(NCC)
 
①NCとしての循環器系疾患への取り組み
当センターには、循環器系疾患を専門に扱う診療科がないため、患者数などの取り組み状況のデータはありません。
②NCCバイオバンクにおける循環器系疾患の収集状況
少数ですが、循環器臓器に発生する希少がん(内膜肉腫等)の試料収集をしています。
③試料に付随する医療情報の特徴
他のがん種と同様に医療情報が付随しています。
⑤試料収集時の治療に関わる情報(治療の状況、転帰)について
現状では試料に添付されていませんが、近い将来に添付を計画しています。
 
国立循環器病研究センター(NCVC)
 
①NCとしての循環器系疾患への取り組み
当センターは、脳血管障害と心臓血管病の両方の患者さんの専門的治療と研究を行っている世界でも有数の施設であり、1977年6月に創設されました。心臓移植数は日本のトップクラスで本年9月末までに127例施行されています。人工心臓の開発、7,000例を超える急性心筋梗塞症例を受け入れた内科系集中治療室(CCU)、29,000例を超える脳卒中急性期症例を治療し1,000例を超える静注血栓溶解(tPA静注)を達成した日本最初の脳卒中集中治療室(SCU)など、多くの実績をあげてきました。
当センターでは、心臓血管内科部門、移植部門、心臓血管外科部門、脳血管部門、小児循環器・周産期部門、生活習慣病部門、高度循環器ドックでの受診があり、平成30年度の1日平均外来患者数は約610.7人となっています。
②NCVCバイオバンクにおける循環器系疾患の収集状況
脳血管障害(脳梗塞、一過性脳虚血発作、脳出血、くも膜下出血など)、心臓血管病(狭心症、心筋梗塞、弁膜症、不整脈、心不全、心筋症、大動脈瘤解離、末梢動脈疾患、肺高血圧症、先天性心疾患[成人先天性心疾患を含む]など)のほか、慢性腎不全、糖尿病、高脂血症などの慢性疾患の患者さんも多く受診されており、これらの疾患の試料も収集しています。
特に、超急性期における試料収集・蓄積の重要性を鑑みて、昨年より虚血性心疾患を対象として心臓カテーテル室での検体収集を開始しました。
③試料に付随する医療情報の特徴
循環器疾患は、リスク因子を有しているだけの時期から発症の急性期、再発を繰り返し重症化する時期、と時間経過とともに進展する疾患が多いことが特徴です。バイオバンクは臨床情報から必要な医療情報(一般血液検査、尿検査、投薬内容、手術などの医療行為、心電図、心エコー、血管造影検査、MRI、CT、SPECTなどの画像所見、認知機能検査など)を時間的経過とともに収集して提供することが可能です。
④治療抵抗性症例や難治例の試料、および⑤試料収集時の治療に関わる情報(治療の状況、転帰)について
保有しています。
 
国立国際医療研究センター(NCGM)
 
①NCとしての循環器系疾患への取り組み
当センターの病院は、総合的な診療体制を基盤とした急性期高度医療を展開しており、様々な心血管・循環器系疾患や脳血管障害の患者さんに幅広く対応しています。なかでも、死亡原因の第4位、要介護の原因の第2位(寝たきりの原因の第1位)を占め、全医療費の1割を占める脳卒中については、救急車で搬送される多数の患者さんを受け入れています。
2018年度の実績は、脳神経外科での脳血管障害外科手術92件、脳血管内手術74件、心臓血管外科での手術総数340件(うち大血管手術145件)、循環器内科での心臓カテーテル約1,000件(うち、PCI治療約300件)でした。
②NCGMバイオバンクにおける循環器系疾患の収集状況
脳血管障害に関する、時系列血液・髄液・病理診断残余の試料をバイオバンクの枠組みから研究に利用できます。また、血液試料は発症直後の急性期・退院直前の安定した状態での試料収集および情報蓄積をしています。
③試料に付随する医療情報の特徴
脳神経外科では、脳卒中入院症例を対象とする多施設共同研究「脳卒中データバンク」や脳神経外科入院症例を全例対象とする「Japan Neurosurgical Database(JND)」への症例登録も行っており、NCGMバイオバンクデータの相互利用が可能となります(臨床情報、血液検査データ、髄液データという複数のデータの集約が可能となります)。本研究データから脳梗塞急性期患者における脳主幹動脈閉塞の予測因子についての検討を行い、Journal of Stroke and Cerebrovascular Diseases誌に発表しました(Corresponding author: Masato Inoue)。
④治療抵抗性症例や難治例の試料について
オンディーヌ症候群、内臓(心臓)逆位などの試料を保有しています。
⑤試料収集時の治療に関する情報(ステージ、治療の状況、転帰)について
必要に応じて調査できますのでご相談下さい。
 
国立成育医療研究センター(NCCHD)
 
①NCとしての循環器系疾患への取り組み
循環器系疾患の年間入院患者数約350人、心臓外科手術約200人、開心術約100人、カテーテル治療約50人です。小児の心疾患すべてが対象で、新生児(特に低体重児)の先天性心疾患、染色体異常等を有する消化器疾患や呼吸器疾患を合併した先天性心疾患を中心に診療しています。近年は小児重症心不全治療にも力を入れています。先天性心疾患の胎児治療も全国に先駆けて開始しています。
②NCCHDバイオバンクにおける循環器系疾患の収集状況
臨床情報や画像情報などの提供は可能ですが、先天性心疾患をはじめとする循環器疾患に関する試料の収集は積極的には行っておりません。
 
国立長寿医療研究センター(NCGG)
 
①NCとしての循環器系疾患への取り組み
当センターの循環器内科1日あたりの平均外来患者数は約45人、平均入院患者数は約22人です。循環器内科では、高齢期の心不全に対して、「リハビリテーション科」とも連携して、積極的に心臓リハビリテーションを実施しています。当施設の心臓リハビリテーションは、退院後も継続でき、独自のバランス練習用ロボット(トヨタ自動車との共同開発によるBEAR;balance exercise assist robot)を用いた特色ある内容です。
また、以前から当循環器内科部門では、フレイルや認知症などの老年疾患と循環器疾患の関連性を中心に研究を進めています。得られた結果を踏まえたよりよい医療の提供が、当部門の主要な診療目標の1つです。
②NCGGバイオバンクにおける循環器系疾患の収集状況
循環器内科から狭心症、血液外科から深部静脈血栓症などの症例が、これまでの累計で十数例ほどありますが、おもに、認知症や高齢期の運動器疾患の併存疾患としてのものです。
③試料に付随する医療情報の特徴
循環器系疾患の試料に付随する医療情報は限定的です。
④治療抵抗性症例や難治例の試料、および⑤試料収集時の治療に関する情報(ステージ、治療の状況、転帰)について
保有していません。

最新ニュース

第5回クリニカルバイオバンク学会シンポジウムと第42回日本神経科学大会に出展

2019年7月5日~7日にアクロス福岡で開催された第5回クリニカルバイオバンク学会シンポジウムに、NCBN(写真)に加え、NCGMとNCVCのバイオバンクもポスターを展示しました。バイオバンクに携わる方が集結した学会の場で、三大バイオバンクだけでなく国内のいろいろなバイオバンクとの繋がりができました。また、2019年7月25日~28日に新潟市の朱鷺メッセで開催された第42回日本神経科学大会にNCNPとNCGGのバイオバンクがブースを出展しました。この学会には、毎年NCNPとNCGGが出展しているため、来場者の認知度は徐々に上がってきています。今後、NCBNは以下のスケジュールでブース展示を行います。ぜひお越しください。
 

学会ブース出展予定

11月 6日~ 9日 日本人類遺伝学会 第64回大会(長崎)
11月 7日~ 9日 第38回 日本認知症学会学術集会(東京)
11月 21日~ 24日 第66回 日本臨床検査医学会学術集会(岡山)
12月 3日~ 6日 第42回 日本分子生物学会年会(福岡)
12月 4日~ 6日 第40回 日本臨床薬理学会学術総会(東京)

NC活動状況

NCBNカタログデータベース試料登録情報 (2019年9月30日時点)

NCBNの活動にご理解、ご賛同いただきましてありがとうございます。患者さまのご協力により、主な生体試料の種類(血清・血漿・DNA・RNA・固形組織・髄液・病理組織など)を網羅しつつ下表のICD-10コード分類に沿う形で登録試料を検索できるようになっています。試料登録数の合計は、244,965件(2019年6月30日)から259,696件(2019年9月30日)へと着実に増えています。統計はつねに更新しており、最新の数値はNCBNウェブサイト(http://www2.ncbiobank.org/Search/Search_)でご確認いただけます。

 

 
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