2020年02月03日 第05巻 第04号 特集「バイオバンク横断検索システム(初版)の運用開始」
Newsletter Volume 5 Issue 04, February 03, 2020 (in Japanese).

特集

バイオバンク横断検索システム(初版)の運用開始

国立精神・神経医療研究センター 後藤 雄一
2018年度から、NCBNはAMEDが行っている「ゲノム研究プラットフォーム利活用システム事業」に、東北メディカル・メガバンク(ToMMo)、バイオバンク・ジャパン(BBJ)とともに参画し、ゲノム研究を支えるバイオリソース利活用を推進している。その目標の1つとして、バイオバンク横断検索システムの構築と運用があり、2019年10月に初版がリリースされた。これにより、上記三大バンクに加えて、岡山大学、京都大学、東京医科歯科大学、筑波大学のデータの検索が可能となった。10月28日に、AMED、三大バンクの代表者などが集まって、記者説明会を行った(https://www.amed.go.jp/news/release_20191028-01.html)。
本システムは、具体的には、対象者295,648人、DNA・血液など654,552の試料、SNPアレイなど198,968の解析情報をワンストップで検索でき、このようなシステムは欧米にも存在していない。種々の疾患領域のバイオリソースを有するNCBNは本システム構築に大きく貢献している。今後は、採取から保存までの時間、保存温度とその期間などの試料に関する情報を付随させることで、ゲノム研究を含むオミックス研究にも活用しやすいバンク情報を第2版として提供する予定になっている。
本事業では、利活用を推進するために必要な手続き(提供手続き、倫理手続き、契約手続き)について、できるだけ共通化を図ることを意図した研究グループも組織されており、NCBNは、これまで進めてきた利活用に関するプラットフォーム作成の経験を十分生かしながら、その作業の中核として活動することが求められている。
一方で、NCBNが有している中央バンクDBと各NCがもつDBの役割分担を明確にすることが必要になっており、これらの点は今後進められる6NC横断事業の中で検討することにしている。どちらにしても、NCBNの強みは詳細な臨床情報と多種類の試料を有していることであり、この点をしっかり守りながらバイオバンク事業を発展させ、臨床研究の推進を図ることが重要である。
バイオバンク横断検索システム初版の概要
NCBNの6つのNC、東北メディカル・メガバンク、バイオバンク・ジャパン、岡山大学、京都大学、東京医科歯科大学、筑波大学の12バイオバンクを横断検索できる。

特集:バイオバンクにおける感染症・アレルギー疾患の収集状況

NCBNに参画する6つの国立高度専門医療研究センター(NC)のバイオバンクの特徴をご紹介するシリーズの6回目として、「感染症・アレルギー疾患」を取り上げます。2019年12月時点での、各NCの感染症・アレルギー疾患(感染症はICD-10分類、アレルギー疾患は共通問診票による)の登録者数(併存病名による登録も含む)は表の通りです。この表に基づいて、感染症・アレルギー疾患についての各NCの診療・研究活動を、質問への回答という形でご紹介します。
試料はおもに血清、血漿、ゲノムDNAなどを保有しておりますが、詳細はNCBNカタログデータベースでご確認ください。なお、アレルギーの有無は、共通問診票で申告していただいていますが、カタログデータベース上には表示されていません。詳しい情報が必要な場合はお問い合わせください。
各NCへの質問事項
1
NCとしての感染症・アレルギー疾患への取り組みは?
2
バイオバンクにおける感染症・アレルギー疾患の収集状況は?
3
試料に付随する医療情報の特徴は?
4
治療抵抗性症例や難治例の試料を保有していますか?
5
試料収集時の治療に関する情報(ステージ、治療の状況、転帰)は保有していますか?
 
国立がん研究センター(NCC)
1
がん診療を行う中で合併症として感染症やアレルギーの診療にあたっていますが、感染症やアレルギー疾患のみの患者受け入れはなく、専門の診療科もありません。
2
能動的な試料収集はしておりません。診療情報から合併症としてカウントした感染症・アレルギー疾患の発生数は、表の通りです。
3
特にありません。
4
5
保有していません。
国立循環器病研究センター(NCVC)
1
脳血管障害と心臓血管病の専門的治療と研究を行っており、感染症・アレルギーに特化した診療科はありません。
2
循環器疾患(心筋梗塞や脳卒中)の重症例の診療を多数行っており、造影剤を含む種々の薬剤等のアレルギー情報を有しています。
3
感染症・アレルギーの生じた経過についての情報は有していますが、データの準備にはお時間をいただきます。
4
5
保有していません。
国立精神・神経医療研究センター(NCNP)
1
2
当センターには感染症・アレルギーの診療科がなく、今のところ積極的には収集しておりません。共通問診票で聴取したアレルギーの有無の情報を利用して、これまでに「花粉症のない健常対照者」の試料、抗てんかん薬等の薬剤アレルギーの試料を提供したことがあります。
国立国際医療研究センター(NCGM)
1
当センターは、「国際的に重要な疾病の制御に係る調査研究」を中心的な使命の一つとして掲げ、エイズ、結核、マラリア、肝炎などの感染症の生物学的、社会学的要因の解析と、それらの制御を目指した様々な研究アプローチを行っています。
2
3
NCGM国府台病院のバイオバンクでは、全国から訪れるウイルス性肝炎の患者さんを対象に、経時的な採血を行い、検体を保管しています。これらの検体は、治療効果や病態進展を調べるための検査キット(保険収載)や、ウイルスの検出キット(開発中)の開発に利用されています。また、消化器疾患については、内視鏡検査を受けた人を中心に検体を収集し、確実な臨床データを付随させています。
エイズ治療・研究開発センター(ACC)では、1997年の開設以来、HIV感染者の血液由来検体を収集・保存しており、それらは、薬剤耐性HIVの検出や抗HIV薬の薬物動態解析などの臨床研究と、ワクチン開発を目指した基礎的研究に用いられています。また、全国レベルの薬剤耐性HIV調査ネットワークに参加しており、未治療HIV感染者に検出される薬剤耐性HIVの割合を調査しています。
国際感染症センター(DCC)では、デング熱やマラリアといった輸入感染症を中心にバイオバンクへの登録を行っています。そのほかにも、診療科横断的な感染症および輸入感染症・一般感染症、渡航者の渡航前から帰国後までの健康管理、新興・再興感染症の診断・治療、薬剤耐性(AMR)の研究に関心がありましたら、お問い合わせください。
4
5
詳細はお問い合わせください。
国立成育医療研究センター(NCCHD)
1
小児の感染症にはすべての診療科で対応にあたっていますが、中でも専門医の診療を要する患者は年間900-1000人にのぼります。年間約3万人の救急外来患者の約3分の1の主訴は発熱であり、入院患者も、RSウイルス感染症が年間250-300人、インフルエンザが30-50人など多数あります。
アレルギーセンターでは、小児のアトピー性皮膚炎、食物アレルギー、気管支喘息、アレルギー性鼻結膜炎、消化管アレルギーなど、月間1000人以上の外来患者と年間1000人以上の入院患者を受け入れています。また、コホート研究や発症予防研究も行っています。
2
バイオバンク検体ではありませんが、重症感染症患者からの分離菌(血液培養・髄液培養)が約1500件、検体からの抽出核酸が約1500件ストックされており、共同研究等により提供可能です。アレルギーについては、標準治療では寛解導入できない難治例を中心に、正確な診断と結びついた検体の採取を心がけています。
3
上記の感染症検体に付随する記録は電子カルテよりアクセス可能で、一部はデータベース化されています。アレルギーに関しては、ImmunoCAPによる抗原特異的IgE抗体価を基本的に全患者で測定しているほか、食物アレルギーでは、経口負荷試験に基づく正確な診断、アトピー性皮膚炎ではUK working partyの診断基準に基づく診断とEASIやPOEMによる重症度評価、気管支喘息ではスパイログラムと呼気NOの定期的測定等、国際標準としてのアウトカム評価変数を収集しています。
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5
保有しています。
国立長寿医療研究センター(NCGG)
1
当センターでは、感染制御認定医師・感染管理認定看護師・細菌検査担当臨床検査技師・薬剤師からなる感染管理チーム(ICT)が病院感染対策の実務を担当しています。また、抗菌薬適正使用支援チーム(AST)が抗菌薬適正使用の支援活動を行っています。一方、「高齢者における新興・再興感染症、インフルエンザ等に関する研究」として高齢者に多い耐性菌対策に関する研究を遂行しています。ちなみに2018年度の当センターにおける感染症患者の月間平均受診者数は約600人でした。
2
おもに認知症や高齢期の運動器疾患の併存疾患としてのものです。
3
感染症・アレルギー疾患の試料に付随する医療情報は限定的です。
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5
保有していません。

最新ニュース

5つの学会にブースを出展

2019年11月から12月にかけて5つの学会でブースを出展しました。それぞれ多数の方にお立ち寄りいただき、NCBNバイオバンクの説明やカタログデータベースを紹介することができました。来場者からは、バイオバンク試料の種類や利用申請方法についてのご質問や、来場者の研究に必要な情報や試料、どのようにしたら利用しやすくなるかなどのご意見も多くいただきました。バイオバンク試料をより広くご活用いただくために、皆様からのご意見を今後の活動に生かしていきたいと思います。
2020年度も多数の学会でブース出展を予定しております。NCBNの詳しい内容を知りたい方はぜひお立ち寄りください。
 

学会ブース出展実績

11月 6日~ 9日
日本人類遺伝学会 第64回大会(長崎)
11月 7日~ 9日
第38回 日本認知症学会学術集会(東京)
11月21日~24日
第66回 日本臨床検査医学会学術集会(岡山)
12月 3日~ 6日
第42回 日本分子生物学会年会(福岡)
12月 4日~ 6日
第40回 日本臨床薬理学会学術総会(東京)
日本分子生物学会への出展風景

NC活動状況

NCBNカタログデータベース試料登録情報 (2019年12月31日時点)

NCBNの活動にご理解、ご賛同いただきましてありがとうございます。患者さまのご協力により、主な生体試料の種類(血清・血漿・DNA・RNA・固形組織・髄液・病理組織など)を網羅しつつ下表のICD-10コード分類に沿う形で登録試料を検索できるようになっています。試料登録数の合計は、259,696件(2019年9月30日)から268,377件(2019年12月31日)へと着実に増えています。統計はつねに更新しており、最新の数値はNCBNウェブサイト(http://www2.ncbiobank.org/Search/Search_)でご確認いただけます。
主な生体試料登録数一覧
ICD-10コード別疾患登録数一覧
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